【SENSHU RUGBY 2018 (その1 春シーズンを総括する)】2018.08.23


関東大学ラグビーリーグ戦1部の開幕までひと月を切った。


昨年、2部リーグを全勝で駆け抜け、入替戦にも勝って1部に復帰した専大ラグビー部は、いよいよ新たなチャレンジの舞台に挑む。

昨季までの4年間、チームを支えたメンバー(入替戦のスタメンで見れば7人)が卒業した今季、春シーズンの出足は悪かった。
初戦の國學院との練習試合(ABチーム)、2年ぶりに出場した春季大会の立教戦に連敗し不安がよぎる。
ただ、原因ははっきりしていた。
なかでも一番大きかったのは高橋昂平(SH・長崎南山・4年)の開幕前のケガによる離脱。郡司健吾(SO・3年・日川)とのコンビでアタックを牽引した新主将の不在によって、いきなりSHのポジション争いが混迷した。
というのも昨年は、リーグ戦が高橋・中島陸斗、ジュニア選手権が佐藤悠・中島というセットで固定されており、そのうち中島、佐藤が卒業。したがって高橋が離脱してしまうと、公式戦を経験したスクラムハーフが一人もいなくなってしまったのである。

 

激化するSH争い

ピッチの横幅を最大限に使ったランニングラグビーを目指す専大にとって、攻撃の起点となるSHは非常に重要なポジション。ここでボールのさばきが少しでも遅れるとバックスラインはなかなかスピードに乗って前へ出ていくことができずにノッキングを起こす。
高橋主将の離脱は非常に痛かったが、そうでなくてもこのポジションの底上げは今季の最重要課題だった。
公式戦で昨年のような形を取るにしても最低あと2人のSHが必要だし、まして今季はリーグ戦は1部、ジュニア選手権もカテゴリー2に昇格し、筑波、早稲田、法政、日大と戦わなければならない。相手のレベルが昨年より格段に上がるだけに一人でも多くの選手が出てきて欲しいところ。
その意味で、怪我の功名というと高橋主将には申し訳ないが、より多くの選手に出場機会が与えられたのは悪いことではなかった。

 

使われた選手は順に酒井亮輔(2年・長崎北)、小田剣(3年・佐賀工業)、杉山郁泉(1年・日本航空石川)、鎌田康平(2年・秋田)。この中では鎌田がチーム戦術にフィットしているように見えた。春先はCでの出場だったが春季大会の青山学院戦からスタメン出場の機会を得た。
そしてこの青山戦でもう一人、魅力的な選手が出てくる。それが7人制日本代表に名を連ねる野口宜裕(4年・早稲田摂陵)。
本職はWTBだが7人制ではハーフに入る。この野口が後半出場すると、いきなり2トライの活躍。特筆すべきはそのランニングスキルで、ボールを持つといきなりトップスピードに入る。また人に強く、敵陣のマイボールスクラムからブラインドサイドを突くと2、3人にタックルされながらもそれを引きずって突進、結局、ゴールラインを越えてトライ。さらに、7人制で日常的に外人選手とコンタクトしているのでタックルも強い。
途中交代で流れを変えるインパクトプレーヤーとしての資質は十分に見えた。

ただ、野口の場合には7人制の活動が優先されるため、秋にどこまで出場できるのかは未知数なことろがある。

そんななか、さらにもう一人、ハーフとして名乗りを上げたのが片岡領(3年・昌平)だ。これまでSO、FBでリーグ戦、ジュニア戦に出場経験がある非常にセンスのある選手だが、郡司、松浦祐太(4年・小倉)の壁が厚く「Aで出られないのはもったいないけど仕方がない」という感があった。
元々パス、ランニングともそのスキルの高さは折り紙つき。ただしSHの場合は専門職であるだけにどこまでその動きを身につけられるかという問題がある。が、そこは指導するのが日本代表SHとして一時代を築き、就任以降、多くのSHを鍛え上げてきた村田亙監督だけに期待は膨らむ。
これまでSHというと小柄な選手が務めることが多いイメージがあったが片岡は181cm82kg。おそらく専大史上もっとも大きなSHになる。現時点では高橋主将をのぞくと、すでに番手はかなり上位に位置しており、夏合宿でさらなる飛躍が望まれる。
もちろんこれまでSHとしてやってきた選手も負けてはいられず、夏合宿でも激しいレギュラー争いが繰り広げられるだろう。

 

スタンドオフはどうなる?

春シーズンの不調の大きな原因はケガ人が続出したことにある(もう一つ大きかったのは石田楽人(PR・3年・桐蔭)がU20日本代表に入り「ワールドラグビーU20チャンピオンシップ」強化合宿と本大会出場による長期不在)。
とくに立教戦の前半に郡司(3年・日川)が傷んで退いてしまったのは大きかった。昨年の入替戦で前半に3トライをあげるなど、もはや外せない選手の一人なだけに、ひと月半ほどの離脱だったとはいえ、少なからぬ影響があったのは否めない。

 

その間、スタンドオフをつとめたのは、昨年ジュニア選手権全試合に出場し、カテゴリー2昇格に大きく貢献した石原武(4年・東福岡)。この石原は1年時の後半にレギュラーの座を掴み、現4年のなかでただ一人リーグ戦1部の出場経験がある。
要するにレギュラークラスの実力は十分にあるわけで、さらにこの2年間のウェイトトレーニングによって1年の時とは比べものにならないほど身体も大きくなっている。郡司ほどの迫力はないが、パスワークは十分に1部レベルにある。


そこで試されたのが春季大会・成蹊戦での郡司のCTBだった。この試合のスタメンはSH片岡、SO石原、CTBは郡司と夏井大樹(2年・秋田中央)で4人ともSO経験者という興味深い布陣。
なかでもやはり184cm91kgの郡司の存在感は抜群で、バックスラインにFWの選手が入っているような印象。一方、夏井は小柄だが(173cm82kg)ラグビーセンスは卓越したものがあり、相手ディフェンスが郡司に気を取られてできたギャップを夏井が鋭く突く形が非常に機能、ピッチ外から見ていてもワクワクするアタックを見せた。


昨季の活躍により、今季の郡司には対戦校のマークが集中することが予想される。それだけに、SOよりFWから遠いCTBに下がった方がより自由に動ける可能性が高い。
もちろん高橋主将が戻ってきた場合の郡司とのHB団は、昨シーズンにその威力を実証済みだが、1部を戦う上で有効な布陣を複数持つことは絶対に必要だろう。

 

台頭する新戦力

昨季の4年生の抜けたポジションはそれぞれにまったく同じレベルの選手が台頭してきており心配はない。
池田が抜けたWTBは山﨑凌太朗(3年・東福岡)、水野景介(2年・東京)を軸にした争いかと思われたが、ここに割って入ってきたのが水野晋輔(1年・東京)。卒業した水野佑亮を含めた水野三兄弟の末弟である晋輔は、強烈なハンドオフで突進する景介のような派手さはないが、基本に忠実で村田監督の評価が高い。


水野佑亮が抜けたCTBは前述の夏井大樹、さらに昨年レギュラーだった光吉謙太郎もいるが、岩佐尭弥(1年・報徳)が面白い存在。1年生ながら身体つきはすでに上級生に引けを取らない。CTBらしい縦への強さを持っており、いずれはバックスの中心選手になるだろう。

堀田南雄斗(WTB・1年・東福岡)も岩佐同様に身体はすでにできており、ピッチに入ると大物感がある。走力は十分にあるがまだディフェンスに難がある。


その他春シーズンで目立ったのは、檜山成希(FB・2年・國學院栃木)。キック力は松浦にかなわないが、アタック時にディフェンスの隙間にスッと入って抜いていく走りに独特なものがあり、たびたび大きくゲインする。
大川萌斗(LO・2年・佐野日大)は昨年のチーム内MVPである西村龍馬(コカ・コーラウエスト)の後釜になり得るポテンシャルがある。身体が大きくなりランもタックルも昨年よりはるかに迫力がある。残念ながら現在はケガで離脱しているが、復帰が待たれる。
一方、昨年の秋をほとんど棒に振った並木淳(4年・東京)が戻ってきたのも心強い。2年の時にはレギュラーのLOとして活躍。186cm106kgの身体を活かした突進に加えて、専大が苦手とするモールの軸としてもしたい。

 

春シーズンのとくに前半の不調は気にする必要はなく、むしろポジション争いが激化したことで戦力の上積みができたことは良かったといえる。
現時点で、前回1部に昇格した2015年よりも戦力的に充実していることは間違いない。この2年間積み重ねたウェイトトレーニングで選手の身体もますます大きくなり、もはや体力面で大きく引けをとることはないだろう。

ただし今季の大学ラグビーはレギュレーションが変更され、留学生選手が3人まで同時にピッチに立つことができるようになった。これによって留学生のいる大学がさらに有利になることが予想される(明治など一部の有力校は別だが)。
それだけに夏合宿でどこまで成長できるかが今季の大きなポイントになるだろう。ここで名前の出た以外にも、楽しみな選手はたくさんいる。
昨年は夏合宿からシーズンインまでの短期間に、チーム力が目をみはるような急上昇カーブを描いた。今季もその再現を楽しみに開幕を待ちたい。

 

文責:京谷六二